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著者のドナ・ウィリアムズは、1963年、オーストラリア生まれの女性。 彼女自身が、自分が「高機能自閉症」と知ったのは、25才の時だったのだが、それは、彼女が25才になって「自閉症」になってしまったという意味ではない。 自閉症は、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられている。世間には、今でも「引きこもりみたいなもの」とか「親の育て方のせいだろう」と誤解しているひとも多いが、この障害は、親や本人にはまったく責任の無いところから発しているものだ。 同じ「自閉症」といっても、その現れ方は様々である。知的な障害を伴ったもから、ドナのように知的には問題が無いのに、他人とのコミュニケーションがうまくできず、「変った人」といった印象を持たれてしまうタイプ、中には、本人もまわりもまったく自閉症とは気づかず、検査を受けてはじめてわかったというケースもある。 これは、幼いときから、世間(親や兄弟も含めて)とのコミュニケーションの断絶に身も心も傷つき悩みながらも(ドナは、ばらばらでつかみ所のない「世間」とのコミュニケーションを取るために、自分の中に様々な人格を持ったキャラクターを作り出すのだが、そのために、ほんとうの自分がどこにいるのか判らなくなってゆく)、ついには結婚にまでこぎつけたドナ自身の心の軌跡をつづった本だ。 日本訳のタイトルだけを見ると、なんとなく、自閉症が治ったのか?と誤解が生まれそうだが、残念ながら自閉症自体はいまのところ治す方法は見つかっていない(訓練を積むことによって、社会的な適応能力を高めていくことはできるが)。 彼女自身と、まわりの理解者によって、まさに心から血が流れるような思いをして、ドナが「ほんとうの自分」を見いだすことができるようになるまでの記録である(3の中に、特殊なレンズの眼鏡をかけることによって「はじめて世界がまとまったひとつの事象として」見えるようになる印象的なシーンがあるが、それまで彼女が見てきた世界がどんなものであるのか、私には想像することも難しい)。 この本が貴重なのは、これがはじめて自閉症者自身の手によって描かれた自閉症の内面世界の記録だからだ。 ドナのケースが、他の障害に苦しむ人々にそのまま当てはまるわけではけしてない。 だがこれは、「世界」というものが、障害のあるなしにかかわらず、「必ずしも自分が見ているとおりに、他のすべての人々にも見えているわけではない」、ということを考える上では、非常に大切な参考書になる本であることだけは確かである。 ぜひ、一読をお薦めする。
by htmkuromame
| 2005-08-06 14:08
| 雑多な感
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