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加藤 鈴乃 Suzuno Kato 1908〜1925(明治41〜大正14) 詩人 「 星が涙のしずくなら 泣いているのは お月さま 空が涙であふれたら 泣いているのは 銀の月 月の涙がながれたら おちてゆくのは どこかしら 海のかなたのとおい島 星はひとりでながれゆく 星はひとりでおちてゆく 海が涙であふれたら 泣いているのは わたしです 」 大正末に、わずか十八で亡くなった加藤鈴乃の代表作。 タイトルは「ほしくず(スターダスト)」。 鈴乃は、この詩を最後に残して亡くなっている。天才の名を欲しいままにした女の、あまりにも早い死であった。 自身の死を、すでに彼女は予感していたのかも知れない。 写真の中で微笑んでいる彼女の横顔は、ほっそりとした色の白い、臈長けたといった感じの美しさである。とても十八には見えない。 十五才を過ぎる頃には、その美しさゆえ、すでに当時の詩人や文学者の間のマドンナ的存在であった。十六才になってはじめて書かれた彼女の作品は、彼らの間で高く評価され、詩集の出版計画が進んでいたのだが、彼女の死とともにそれも立ち消えた。 というより、彼らが、あまりにも彼女を神聖視したために、その存在を世間に知らせるのを惜しんだのだ。 それゆえに、「ほしくず」も含めて、彼女のいっさいの作品を収めた創作ノートは、彼女の棺とともに荼毘に付されてしまった。その作品は、彼女を弔った人々の心にだけ刻まれることとなった。 彼女の写真もすべてその時に灰となってしまったので、今では、だれひとり彼女の美しすぎる横顔を見ることは出来ない。 惜しいことである。
by htmkuromame
| 2004-07-06 20:06
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