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「さて、君はタイムパラドックスについて知っておるな?」 「はい、もちろんですとも博士」 「説明してみたまえ」 「はい。一番の良い例は、自分が生まれる前の過去にさかのぼって自分の親を殺したら今の自分という存在はどうなるのか?というものですね。 親が存在しなければ、自分も存在しない、だが、親を殺すためには自分も存在しなければならない、という堂々めぐりの矛盾に落ち込んでしまうのが、いわゆる親殺しのタイムパラドックスです」 「だが、そのパラドックスに、答えを出したものは居ない。 何故かね?」 「それは…」 「答えは簡単じゃよ。 今まで、誰も『タイムマシンを作ったものが居ないから』じゃ」 「あ、なーんだ」 「だが、ついにそのパラドックスに答えの出る日がやってきた」 「ええっ、そうなんですか?」 「相変わらず白々しいな君は、この目の前にあるタイムマシンは、君とふたりで作ったものじゃないか」 「だから、信じられないんだけど…」 「ん?」 「あ、いや、別に。 でも、これほんとに動きますかね?部品の殆ど、ジャンク品から取ったんですけどねえ」 「ばか者、氏より育ちという言葉を知らんのか」 「なんか、違う気もしますが。 まあ、ものは試しで、動かしてみます?」 「う、そうだな。 じゃあ、取りあえず、中生代の白亜紀辺りに行って、イグアノドンの卵でも拾って、恐竜絶滅の時代から古生代辺りへ少し移してみようじゃないか。 そうすれば「恐竜が生き残った世界」が、実現するかも知れないぞ。ほら、君の好きな本物のジュラシックパークが出来るぞ」 「ジュラシックパークなら、ジュラ紀でしょ。 そんないい加減な実験していいんですかねえ?」 「何、誰もやったことがないんだから、いい加減も何もないんじゃ。 さあ、タイムマシンに乗りたまえ」 「ええ!わたしが行くんですかあ?」 博士は、いやがる助手を無理やりタイムマシンに押し込んで、数字を打ち込んでスタートボタンを押した。 しばらくすると、マシンの蓋が開いて、助手が戻ってきた。 「な、なんとか成功しました。もうちょっとで死ぬとこでしたよ〜」 「よくやった。さ、外がどう変ったか窓から見てみようじゃないか」 「何にも変ってませんねえ。 いつもとおんなじですよ」 「う〜ん、テレビでもつけてみるか?何かやってるかも知れない」 そう言って、そのイグアノドンは、テレビのリモコンを手に取った。
by htmkuromame
| 2004-07-13 13:55
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